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第350話 お疲れさまでした

Author: Sunny
last update publish date: 2026-08-26 21:17:07

先ほどの縁談を。

感情的な拒絶として受け取っていない。

私が望んだ通り。

仕事と婚姻を、きちんと分けてくれている。

「白松先生」

郁人先生が言う。

「今日のことは」

「今後の業務へ持ち込む必要はありません」

「はい」

「ただ」

一度、隼人くんへ視線を向ける。

「隼人とは、話した方がいいでしょう」

その言い方に。

わずかな含みがあった。

心配というより。

今の弟の状態を、正確に見ている人の言葉だった。

「そうします」

私が答えると、郁人先生はそれ以上何も言わなかった。

「では」

「お疲れさまでした」

「お疲れさまでした」

郁人先生は、隼人くんの横を通る。

二人の間に。

短い視線が交わった。

「兄貴」

隼人くんが呼ぶ。

「何ですか」

「後で連絡する」

「分かった」

兄弟の会話は、それだけだった。

郁人先生が部屋を出ていく。

襖が閉じると。

急に、隼人くんと二人だけになった。

***

隼人くんは。

すぐには話しかけてこなかった。

上着のポケットへ片手を入れたまま、少し離れた場所に立っている。

機嫌が悪い。

そう見えた。

けれど。

表情から何を考えているのかは読めない。

父親たちの前で見せて
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    先ほどの縁談を。感情的な拒絶として受け取っていない。私が望んだ通り。仕事と婚姻を、きちんと分けてくれている。「白松先生」郁人先生が言う。「今日のことは」「今後の業務へ持ち込む必要はありません」「はい」「ただ」一度、隼人くんへ視線を向ける。「隼人とは、話した方がいいでしょう」その言い方に。わずかな含みがあった。心配というより。今の弟の状態を、正確に見ている人の言葉だった。「そうします」私が答えると、郁人先生はそれ以上何も言わなかった。「では」「お疲れさまでした」「お疲れさまでした」郁人先生は、隼人くんの横を通る。二人の間に。短い視線が交わった。「兄貴」隼人くんが呼ぶ。「何ですか」「後で連絡する」「分かった」兄弟の会話は、それだけだった。郁人先生が部屋を出ていく。襖が閉じると。急に、隼人くんと二人だけになった。***隼人くんは。すぐには話しかけてこなかった。上着のポケットへ片手を入れたまま、少し離れた場所に立っている。機嫌が悪い。そう見えた。けれど。表情から何を考えているのかは読めない。父親たちの前で見せていた冷たさは消えている。それでも。いつもの隼人くんにも戻っていなかった。「隼人くん」私から名前を呼ぶ。ようやく、視線がこちらへ向いた。今日初めて。正面から目が合う。その目には。怒っているような。傷ついているような。それでも、どちらも隠そうとしているような色があった。「終わった?」低い声だった。「うん」「郁人兄貴とは」一度、言葉が止まる。「ちゃんと話したんだ」「挨拶しただけだよ」「そう」短い返事。やはり、少し機嫌が悪い。「隼人くん」「何?」「私に言いたいことがあるでしょう」隼人くんは。少しだけ目を細めた。すぐには答えない。私の表情を。今度こそ、逃さず見るように。じっとこちらを見ている。「あるよ」やがて言う。声は静かだった。「かなり」「ここで話す?」隼人くんは、部屋の中を一度見回した。料亭の個室。父親たちがいた場所。郁人先生との縁談を提示され。隼人くんが海外事業を継ぐと決めた場所。「ここでは話したくない」はっきり言う。「じゃあ、帰る?」その問いに。隼人くんの口元が、わずかに固くなった。「帰りたい?」

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